コラッツ問題とは, 「任意の0でない自然数nをとり, nが偶数の場合, nを2で割る.nが奇数の場合, nに3をかけて1を足すという操作を繰り返すとどうなるか」というものである. この操作により「どんな初期値から始めても,有限回の繰り返しのうちに, 1→4→2→1というループに入る」という主張が, コラッツ予想である.コラッツ問題の奇数のときの乗数を3から5に変えると複数のループや発散する軌道が現れる.このような挙動は, 同じカオス振動子を結合した場合にも現れる.結合強度が強い場合は完全カオス同期が観測され,任意の初期値から完全カオス同期解に到達するまでの時間の長短で相空間を色分けすると, 自己相似的なフラクタル図形が得られる.同様に, コラッツの3周期のループに到達するまでの時間の長短で自然数を分類すると, ある種のフラクタル構造が得られ,そのフラクタル次元を求める.同じカオス振動子を結合した場合に, 振動子の制御変数や結合強度を適当に選ぶと, 複数の周期軌道や完全カオス同期解が共存し,それぞれのアトラクタに漸近する初期値の集合(ベイスン)がリドル・ベイスンと呼ばれるフラクタル構造が得られるが,コラッツ問題の奇数のときの乗数を3から5に変えた場合にも,リドル・ベイスンのようなベイスンのフラクタル構造が得られることを示し,そのフラクタル次元を求める.xが奇数で0 [1] , 偶数で1 [0] となるような簡単な関数cos^{2}(pi x/2) [sin^{2}(pi x/2)] を用いると,(rx+1)sin^{2}(pi x/2)+(x/2)cos^{2}(pi x/2)は, xが自然数のときコラッツ問題の条件を満たすような実数から実数への写像となる.1→4→2→1というループはこのような写像のr=3のときの安定3周期軌道であり,r=5のときは, 複数の安定周期軌道が共存する. この実数から実数への写像について, rについての分岐やベイスンのフラクタル構造を議論する.
感染症モデルは,科学パラダイム転換,合意形成など,さまざまな分野に応用され,数多くの数理モデルが提唱されている.ここでは,あるノードの状態変化が,ある状態をとるノード数の全ノード数に対する比率のみで定まる平均場的な科学パラダイム転換の数理モデルを改良し,考慮するノードに直接つながっているノードの状態に依存するネットワークモデルを導入し,流行伝搬モデルにに対するスモールワールド性の影響を解析する.社会学でよく知られたロジャースの普及曲線やイノベータ理論との比較を行う.
本研究では、一般化Frobenius-Perron 演算子を応用して、1 次元カオス写像から不安定周期軌道間の不規則遷移現象を表す有向グラフを生成し、カオス的時系列の特徴を有向グラフのネットワーク特性量として捉えることを試みた。カオスには可算無限個の不安定周期軌道が内在しているが、間欠性カオスのような分岐点近傍で見られる特徴的なカオスの場合、特定の有限個の不安定周期軌道間の不規則遷移現象としてカオスを捉えることができる。まずは、厳密にMarkov 分割することができる可解な1 次元カオス写像を用いて、種々の間欠性カオスに対応する有向グラフを生成した。間欠性カオスは準周期的運動(ラミナー相)と乱れた運動(バースト相)を非周期的に繰り返すことが特徴である。この特徴は、有向グラフの出次数分布において、低い出次数にラミナー相に対応する顕著なピークをもち、高い出次数にバースト相に対応する小さなピークをもつこととして現れた。さらに、有向グラフの各ノードの重み付き訪問確率を算出した。重み付けパラメータq を変えることで、支配的な不安定周期軌道の移り変わりを順次観測することができた。この様子は、間欠性カオスの種類によって、大きく異なっている。また、3 バンドカオスの影響を強く受けているクライシス誘起間欠性カオスの有向グラフ表現に対して、ネットワーク科学の分野で知られているコミュニティ分割手法を適用した結果、同一周期の不安定周期軌道が同一のコミュニティに属することが分かった。次に、厳密にMarkov 分割できないロジスティック写像の間欠性カオスに対して有向グラフを生成して、出次数分布や重み付き訪問確率を求めた。ロジスティック写像から得られた結果が可解モデルから得られた結果と同様の性質を有することから、可解モデルで得られた結果がそのモデルに特有のものではなく、その種の間欠性カオスに普遍的な結果であることが言えた。通常のパワースペクトルの観測では見ることができない不安定周期軌道間の不規則遷移現象の様子を、有向グラフ表現によって明らかにすることができた。
熱浴中にある二枚の歯をもつ爪車と爪からなるラチェット系に外部からランダムに(偏光)方向が変動する場が働くときに生じる一方向回転を対応する数理モデル(二次元ニ枚歯ブラウン回転ラチェット模型)を用いて考察する.特に、回転の出力を大きくするためにポテンシャルを改良した結果について発表する.
有性生殖生物の家系図は親が二個体であるために複雑な構造をしていることが知られている。我々はその構造を特徴づけるために、家系図を有向非循環グラフ(DAG)とみなし、集団内の先祖個体から親子関係を一方向に辿り、子孫個体それぞれに到達する確率や先祖個体との関係性の近さに着目した。単純な生物集団モデルと競走馬の実データに対して解析を行い、生物集団内の継承過程とネットワーク構造の特徴付けを行った。
結合振動子系の中で、劣化などによって自律的に振動しない不活性振動子の割合が増えることによって、結合振動子系の振舞いに影響が及ぶこと(エイジングの効果)がある。大域結合をしたMorris-Lecarモデルにおいて、分岐パラメーターを自律振動しない領域と自律振動する領域に亘り、一様に分布させ、その平均と結合強度を変化させることによって集団の振舞いがどのように変化するかについて数値的に調べた結果を報告する。
長距離相互作用を有する多体ハミルトン系は、Vlasov方程式で記述できる。これまでは空間一様状態まわりのダイナミクスを中心に研究されてきたが、近年、空間非一様状態まわりのダイナミクスの研究も進展してきている。本発表では、一様状態と非一様状態を比較し、それらの違いを概観する。なお本発表は、小川駿(京大情報)、Julien Barre(Univ.Nice)、Alain Olivetti(Univ.Nice)、Aurelio Patelli(Univ.Florence)各氏との共同研究に基づくものとなる予定である。
加振されたボルト・ナット系の現象論的モデルとして導入した周期外力を含み,同心円状の狭く深い溝を持ったポテンシャルを持つ運動方程式系の分岐構造を調べた結果をご報告します。
ねぐらの周りを旋回飛行する伝書鳩の群れは相対位置をあまり変化させず飛行している。先行研究では前方にいる個体の運動方向を後方の個体が遅れて追尾するという関係があることが示されており、我々は個体間の追尾関係と相対位置に関して定量的な解析を行った。
互いに異なるカオス素子を結合した系は、結合強度に応じていわゆる一般化同期が引き起こされる。一般化同期は二つの素子の間にある関数関係が存在することで定義されるが、その関数の性質によって弱い一般化同期と強い一般化同期の二種類が存在することが知られている。その中で、強い一般化同期では関数関係が至る所微分可能となるが、弱い一般化同期では微分不可能であったり不連続であったりする。今回の講演ではそれらの関数関係とリアプノフ数との関係を議論する。
連想記憶型相互作用を有する古典XYモデルにおいては、解の1パラメータファミリーが存在する。同じ相互作用を有する位相振動子系では、この解に対応する定常解は不安定で、代わりに現れる周期解には、定常解と同様な偽保存量がある。したがって、XYモデルの定常解と周期解の間になんらかの関係が存在することが予想される。そこで、周期解の周期などのシステムサイズ依存性を調べ、対応関係を議論する。
縞枯れ現象について、個体間差異を加えたモデルを提案する。数値実験の結果、パターンの規則性は個体間差異の度合いに大きく依存し、適度な個体間差異がある場合に最も規則的となることがわかった。
名字および名前のサイズ頻度分布が、その希少領域においてべき的に振舞うことを実データによって示す。ガルトン=ワトソン型の比較的単純なモデルとの比較をおこなう。また地名の一部に対しても同様の傾向が見られることを紹介する。