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平成18年度 修士論文要旨

川邑 典之 「EuSnP の光電子分光:Eu価数評価と 磁気秩序に伴うバンド構造変化の観測」

 21 K で反強磁性転移を示す層状物質 EuSnP に対して、 Eu 価数を評価するために Eu 3d-4f 共鳴光電子分光 (RPES) 実験を、 転移に伴うバンド構造変化を観測するために角度分解光電子分光 (ARPES) 実験を行った。 単結晶のへき開面に対して Eu 3d-4f RPES 実験 (約1130 eV) を行うことで、 表面成分をほとんど抑えたバルク Eu 4f 電子状態の観測に成功し、 27 K での Eu 平均価数を 2.10 と評価した。 この価数を比熱や帯磁率の結果と比較すると、転移点の高温側で Eu の短距離磁気秩序が生じていると示唆される。 また、EuP 層に平行な配置で得た ARPES スペクトルの G 点近傍で フェルミ準位を切るバンドが、転移前後で 63 meV のシフトを示すことから、 転移には層方向の Eu 4f - 伝導電子間の混成が重要な役割を果たすものと示唆される。 さらに、層に垂直な配置で得た ARPES スペクトルから、 反強磁性状態での Eu2+ 磁気モーメントが個々の層内で強磁性的に、 近接層間で反強磁性的に配列していると考えられる。

 

中島 裕一 「CuIr2S4 の金属−絶縁体転移に伴う電子状態の変化」

 CuIr2S4 は約 230 K で金属−絶縁体転移を示す。 低温側の絶縁体相では、Ir イオンは 3 価と 4 価に分離し、 特異な電荷秩序を形成すると考えられている。 バンド計算による予想とは異なり、価電子帯の光電子分光 (PES) スペクトルでは、 Ir 5d による構造が明瞭に分離されない。 本研究では、励起光エネルギー依存性を測定することによって、 価電子帯 PES スペクトルにおける Ir 5d の寄与が大きい構造の同定に成功した。 また、Ir 5d と S 3p の混成について調べるため、S L2,3 軟X線発光分光 (XES) を行った。 その結果、フェルミ準位付近は Ir 5d と S 3p の混成バンドで構成されていることがわかった。 価電子帯 PES および S L2,3 XES スペクトルを転移温度前後で比較すると、 金属相に比べ絶縁体相の Ir 5d - S 3p 混成バンドは、フェルミ準位付近で状態密度が減少し、 高結合エネルギー側にシフトしていることがわかった。 これは 4 価の Ir イオンの 2 量体化に伴う変化として説明することができる。

 

花井 和久 「La0.5Sr1.5MnO4 の 電荷・軌道整列状態の走査トンネル顕微鏡を用いた実空間観測」

 ペロブスカイト型 Mn 酸化物 La0.5Sr1.5MnO4 は 約 230 K で電荷・軌道整列転移を起こし、 高温相で単一の 3.5 価状態にあった Mn イオンが3価と4価に分かれる。 本研究では La0.5Sr1.5MnO4 単結晶試料を作成し、 高い空間分解能を持つ走査トンネル顕微鏡 (STM) を用いて、 電荷・軌道整列状態の実空間観測を試みた。 しかし、STM 測定を行うことによって試料表面から酸素原子の脱離が生じたことにより、 電荷・軌道整列を捉えることができるほどの分解能は得られなかった。 この酸素脱離は、STM 測定の際に生じるトンネル電流に応じて発生確率が変化する。 また、室温では空間的に無秩序に発生していた酸素脱離が、 低温では十字型に整列して観測された。 この低温での酸素原子が脱離する位置の規則性は、 脱離にトンネル電流が関係していることから、表面の酸素の電子状態が、 混成している Mn の電荷・軌道整列転移を反映して空間的な規則性を持った結果と考えた。

 

平成18年度 4回生卒業研究

高須 純太 「Pr0.5Ca0.5MnO3-δの Mn 3s→2p 軟X線放射スペクトルの温度依存性」

野上 隆文 「擬1次元物質 TlGaTe2 の角度分解光電子分光  − バンド分散の温度変化 −」

 

 

平成17年度 修士論文要旨

野田 辰則 「Pr0.5Ca0.5MnO3-d (d〜0.05) の Mn 3d 電子状態 ―軟X線発光分光法による研究―」

 Pr0.5Ca0.5MnO3-d (d〜0.05) は斜方晶ペロブスカイト型構造を持ち TCO=242 K で電荷整列転移を示す。TCO 以上ではすべての Mn イオンは単一の 3.4 価状態にあるが、TCO 以下では3価と4価に分かれる。本研究では、この電荷整列転移に伴う Mn 3d 電子状態の変化を明らかにするために、Mn 2p-3d-2p 共鳴X線発光分光 (RXES) スペクトルを 300 K と 200 K で測定した。Mn 3d 軌道は、O 2p 軌道と混成しているが、電荷整列状態では混成が弱くなることを示唆する結果が得られた。観測された RXES スペクトルの温度変化を理解するために、Jahn-Teller 歪を考慮した MnO6クラスターモデルを用いて、RXES スペクトルを計算した。その結果、Mn 3d 軌道は電荷整列状態では転移に伴う歪により対称性が低下した結晶場の影響を受けていることが分かった。

 

藤田 幸宏 「光電子分光法による Eu3Ir4Sn13、 Gd3Ir4Sn13 の電子状態の研究」

 Eu3Ir4Sn13、Gd3Ir4Sn13 は、共にネール温度が 11 K の反強磁性体である。本研究では両物質の希土類イオンが同じ基底状態 (S=7/2, L=0, J=7/2) であるにも関わらず磁気構造が違う要因を電子状態の立場から論じることを目的として、放射光および実験室光源を用いた光電子分光実験を行なった。
 スペクトルの大半を Ir 5d で占めている価電子帯スペクトルのフェルミ準位近傍の強度は、Eu3Ir4Sn13 よりも Gd3Ir4Sn13 の方が大きい。さらに希土類 3d-4f 共鳴光電子スペクトルを詳細に観測したところ、Gd は3価で局在している一方、Eu は2価成分が混じり僅かに3価成分が存在する、つまり価数揺動状態にあることが分かった。これらのことは、両物質の磁気構造の違いにフェルミ面の違いや希 土類元素の局在性の差が関係することを示唆している。また、得られた共鳴光電子スペクトルは、原子モデルに基づいた理論スペクトルと良く対応することを明 らかにした。

 

平成17年度 4回生卒業研究

奥村 大樹 「単結晶薄膜成長装置の立ち上げと Si(111) 基板の電子線回折像の観測」

塩見 健  「X線光電子およびX線発光分光法による CuInS2 の価電子状態の研究」

西中川良平 「硫化物の S L2,3 発光スペクトルのピークの分離」

 

 

平成16年度 修士論文公聴会

鈴木 光晴 「CeSi の高分解能 4d-4f 共鳴光電子スペクトルの温度依存性」

 CeSi はネール温度 5.9 K の反強磁性化合物であり、興味深い物性を示す。 特に電子比熱係数は、22〜35 K の範囲で重い電子的である大きな値を示すが、 反強磁性秩序に伴い自由電子的な値へと急激に減少する。 本研究では、電子比熱計数の変化を Ce 4f 電子状態の立場から議論するため、 試料温度 200〜5.6 K で高分解能 Ce 4d-4f 共鳴光電子分光実験を行った。 フェルミ準位近傍の Ce 4f1 終状態のスペクトル強度は、200 K から 30 K までの温度降下に伴って増加していくが、 逆に 30 K 以下 5.6 K までは徐々に減少する。200〜30 K までの変化は、近藤効果による重い電子的振る舞いの成長によって理解され、30〜5.6 K の変化は RKKY 相互作用によって磁気モーメントが反強磁性的配列をとることで 重い電子的性質が強く抑圧された結果として理解でき、電子比熱計数の温度変化とも矛盾しない。 つまり、スペクトルの温度依存性は RKKY 相互作用と近藤効果の競合により生じたもので あることが明らかになった。

 

船越 郷志 「EuPd2Si2 のX線光電子分光: Eu 価数転移に関する研究」

 EuPd2Si2 の Eu 平均価数は、約 150 K を境界に低温側で 2.8 価、高温側で 2.3 価へと急激に転移する。 本研究では、Eu 価数転移を転移温度前後 (100 K, 200 K) でのX線光電子分光 (XPS) 実験により調査した。 破断試料に対する Eu 4d スペクトルにおいて、Eu2+ に対する Eu3+ 成分の強度が 100 K と 200 K とで大きく変化した。 この変化が Eu 価数転移に対応するものである。 また Eu 4d スペクトルは、 サテライト構造も含めアトミック計算による理論スペクトルと良く対応する。 破断試料と表面を酸化させた試料に対する XPS スペクトルの比較では、 Eu 価数転移がバルクで起こっていることが確かめられた。 さらに、転移温度前後で Si 2s, 2p や Pd 3d, 4s スペクトルに変化は観測されなかった。 このことは、Si や Pd の電子状態が Eu 価数転移の影響を受けないことを示唆している。つまり、Eu 価数転移の際、Eu イオンから Si や Pd に及ぼされるはずの静電的な影響を緩和するようなメカニズムが 働いていると考えられる。

 

山本 和矢 「放射光を用いた光電子分光法による EuNi2(Si0.20Ge0.80)2 の電子状態の研究」

 EuNi2(Si0.20Ge0.80)2 の Eu 平均価数は、80 K を境界に低温側で 2.75 価、高温側で 2.35 価へと一次転移する。 本研究では EuNi2(Si0.20Ge0.80)2 の価数転移における 物理的メカニズムの解明を目的として、転移温度前後の試料温度において放射光を用いた 光電子分光実験を行った。Eu 化合物の表面層は Eu2+ に局在するため、 バルクの情報を多く含むスペクトルが得られる硬X線 (5940 eV) を励起光とした。 40 K の Eu 3d 光電子スペクトルでは Eu2+ 成分に対して Eu3+ 成分が支配的な状態で観測され、 逆に 120 K のスペクトルでは価数成分が反転した。さらに Eu3+ 成分のスペクトル形状を比較すると 40 K では鋭い構造であるのに対して、 120 K ではブロードな構造になっている。これは Eu が価数転移するに伴い、Eu 4f 電子の局在性が変化することを示唆する。 さらに転移点前後の温度で Eu 3d-4f X線吸収や共鳴光電子スペクトルも測定し、 得られたスペクトルから Eu の価数転移に伴う電子状態の温度変化を明らかにした。

 

平成16年度 4回生卒業研究

大高 美甫 「X線光電子分光による CePd2Si2 と CeNi2Si2 の電子状態の研究」

川邑 典之 「EuSnP の Eu 3d-4f 共鳴光電子分光」

中島 裕一 「イオウ L 軟X線発光分光による CuIr2S4 の電子状態の研究」

花井 和久 「軟X線発光分光による Zr55Al10Ni5Cu30 金属ガラスの電子状態の研究」

 

 

平成14年度 修士論文要旨

北本 克征 「CuIr2S4 の金属-絶縁体転移に伴う Ir 5d 電子状態の変化」

 CuIr2S4 は、約 230 K で金属-絶縁体転移と常磁性-反磁性転移を同時に示す。低温の絶縁体相では、Ir イオンが価数分離して特異な電荷整列構造を形成していると予想されている。CuIr2S4 の Ir の価数状態を調べるために、Ir 4f 光電子スペクトルを測定したところ、価数分離を示す兆候は見られなかった。これは、絶縁体相でも Ir イオンが単一価数状態で存在していることを示している。さらに、CuIr2S4 の電子構造解析から指摘されている、Ir 5d 電子相関の効果を明らかにするために、オンサイトクーロン相互作用をあらわに考慮した IrS6 クラスターモデルを用いて理論計算を行った。その結果、Ir 4f 光電子、Ir 5d 光電子・逆光電子分光実験スペクトルを良く再現できた。このとき、Ir 5d 電子間クーロンエネルギーを 4.0 eV と見積もった。この値は 3d 遷移金属化合物のものと同程度であり、CuIr2S4 における Ir 5d 電子相関は強いと考えられる。

 

萬谷 和也 「バルク敏感高分解能光電子分光による EuPd2Si2 の価数転移の研究」

 EuPd2Si2 の Eu 平均価数は、約 150 K を境界に低温側で 2.8、高温側で 2.3 へと連続的かつ急峻な転移を示す。本研究では EuPd2Si2 の価数転移を Eu 4f 電子状態より調べるため、20〜300 K で高分解能光電子分光実験を行った。Eu 化合物の表面層は強く 2 価に局在しスペクトル中に大きく影響するため、バルク敏感なスペクトルが得られる軟 X 線 (700 eV) を励起光とした。その結果、Eu2+ のうち結合エネルギー 0.7 eV の構造が温度上昇に伴い著しく増加した。この変化は Eu 平均価数の温度依存に対応するため、この構造はバルク Eu2+ の構造と帰属でき、バルク敏感・高分解能測定により初めて直接観測された。一方、Eu3+ の構造は温度上昇に伴い減少する。そこでスペクトルから Eu 平均価数を評価したところ、低温・高温側では以前の研究と矛盾しない価数が算出されたが、約 150 Kでの急峻な価数転移は再現できなかった。これは試料をファイリングした際に生じる表面の粗さが原因すると考えられる。

 

渡邉 陽子 「Ce 3d-4f、4d-4f 共鳴光電子分光による CeSi の Ce 4f 電子状態」

 CeSi は様々な物性研究から局在系 Ce 化合物として興味ある性質を示す。しかし磁気抵抗の結果のみ遍歴モデルで説明されるという問題点がある。そこで本研究では物性の中心を担う Ce 4f 電子の局在・遍歴性の検証を目的として、CeSi に対してバルク敏感 Ce 3d-4f ・表面敏感 Ce 4d-4f 高分解能共鳴光電子分光実験を行ない、バルク Ce 4f 電子状態について考察した。得られた Ce 4f スペクトルには、典型的な Ce 化合物に観測される Ce 4f0、4f1 終状態による構造の他に、結合エネルギー 1.0 eV に帰属不明な構造が観測された。 Ce 4f 電子の局在・遍歴性を明らかにするため、不純物アンダーソンモデルに基づいたスペクトル計算を行った結果、Ce 4f 電子は局在し、混成が弱いことが分かった。すなわち磁気抵抗の実験結果は局在モデルの立場に立った解析が要求される。また不明であった 1.0 eV の構造は、計算結果から Si 3p との混成により生じる Ce 4f1 終状態による構造であると帰属できた。

 

平成14年度 4回生卒業研究

岩間 司郎 「MgB の B K 発光スペクトル」

船越 郷志 「電子分光用極低温冷凍機システムの製作とその評価」

 冷凍機・試料温度制御システムを製作し、複合電子分光実験装置に取り付けた。試料温度は目標の20 Kに到達し、±1 Kでの温度制御にも成功した。

山本 和矢 「Ag の高分解能紫外光電子スペクトルの温度依存性」

 標準試料 Ag の電子状態の温度依存性を観測するために、価電子帯とフェルミ準位近傍の紫外光電子スペクトルを測定した。実験結果の解析から、装置のエネルギー分解能を 40 meV と評価した。また正確な温度制御のもとで測定が可能であることを示した。

 

平成13年度 修士論文要旨

岡林 良尚 「共鳴X線発光分光法による LaCoO3 の磁気転移に関する研究」

 ペロブスカイト型をもつ LaCoO3 は、基底状態では非磁性であるが常磁性状態へ熱励起されて約 100 K で最大の帯磁率を示す。本研究では、LaCoO3 の磁気転移に関与する Co 3d 電子構造およびスピン状態の変化を明らかにするため、Co 2p-3d-2p 共鳴X線発光スペクトルの励起エネルギー依存性および偏光依存性の温度変化を測定した。その結果、Co 3d 電子状態が非局在化していること、温度上昇により低スピン状態の Co 原子数が減少することがわかった。さらに、CoO6 クラスターモデルを用いて理論計算を行い、Co 3d 電子状態を規定するパラメータの値を見積った。また、実験では十分に分解できなかったが、各スピン状態に対する発光スペクトルの共鳴成分は異なる励起エネ ルギーおよび偏光依存性を持つことをこの理論計算から明らかにした。

 

平成13年度 4回生卒業研究

小野田 匡希 「軟X線発光スペクトルによる SiC の電子状態の研究」

 

平成12年度 修士論文要旨

崎山 大輔 「XPS・BIS・EELS による CeRuSiの電子状態の研究」

 CeRu2Si2 は、超伝導は示さないが大きな比熱係数を持つ重い電子系の物質であり、メタ磁性転移など興味深い性質を示す。本研究では、X線光電子分光法 (XPS)、逆光電子分光法 (BIS)、電子エネルギー損失分光法 (EELS) を用いて CeRu2Si2 の電子状態、特に Ce 4f 状態、の実験的研究を行った。Ce 3d XPS は、Ce 4f1 終状態に起因する強いピークと 4f0、4f2 終状態による弱いサテライトを示す。これらの構造を不純物アンダーソンモデルによる計算と比較した結果、CeRu2Si2 の 基底状態における Ce 4f 電子と伝導電子との混成は弱いことがわかった。BIS には Ce 4f1 と 4f2 終状態に対応する2つのピークが観測された。Ce 3d XPS に対して用いたパラメータによって計算を行ったところ、ピークの重心のエネルギー間隔、面積強度比は実験結果をほぼ再現できた。また、価電子帯 XPS と BIS の結果をもとにして、EELS で観測された複数の構造について考察した。 

 

溝端 博幸 「La1–xCexSi の Ce 4f 電子状態 −高分解能共鳴光電子分光による研究−」

 CeSi は様々な物性研究から局在系 Ce 化合物と考えられているが、磁気抵抗の実験結果のみは遍歴モデルで説明される。この問題を明らかにするた めには磁性を決定づける Ce 4f 電子状態に着目する必要がある。本研究では La1–xCexSi (x = 0.6, 1) に対して Ce 4d-4f 高分解能共鳴光電子分光実験を行ない、得られた Ce 4f 電子状態に対して Ce  濃度依存性も含めて議論を行なった。得られた Ce 4f スペクトルには、Ce 濃度依存性は観測されず、典型的な Ce 化合物に対して観測される Ce 4f0, 4f1 終状態による構造の他に、1.0 eV に帰属不明な構造が観測された。Ce 4f 電子状態の局在・遍歴性の問題を暁かにするため不純物アンダーソンモデルに基いたスペクトル計算を行なった。その結果、両試料とも局在系Ce 化合物としてのパラメータを用いることによりスペクトル構造を定性的に再現できた。さらにこの計算から、1.0 eV の構造も Si 3p 電子と混成することにより生じた Ce 4f1 終状態による構造であると帰属できた。 

 

平成12年度 4回生卒業研究

北本 克征 「ガスカウンターの製作とその性能試験」

 微視角入射型軟X線発光分光計の検出器として、新たにガスカウンターを製作した。最適使用条件を見出して、グラファイトの炭素 発光スペクトルによって性能評価を行った。 

 

萬谷 和也 「真空紫外光源の製作」

 固体・表面複合解析装置に真空紫外光源を設置した。放電気体として He を用いて、He I および He II 共鳴線の発生に成功した。 

 

渡邊 陽子 「X線光電子分光法による CeSi2 の電子状態の研究」

 CeSi2 のX線光電子分光スペクトルを測定し、Ce 3d XPS および Ce 4d スペクトルから、Ce 4f 電子と伝導電子との混成の大きさを評価した。混成の大きさは、Ce7Ni3 と同程度で、同じ Ce-Si 化合物の CeSi よりは大きいことがわかった。

 

 

平成11年度 4回生卒業研究

大橋 仁 「90°SDAの電子光学特性の研究」

 90°同心半球型エネルギー分析器 (Spherical Deflector Analyzer) のエネルギー分散特性、および焦点特性について、数値計算を用いることによって、電極の縁による電場の乱れの効果 (fringing field effect) を調べた。

 

岡林 良尚 「TiNの軟X線発光スペクトル」

 微視角入射型軟X線発光分光計を用いて、耐熱性金属化合物 TiN のN 軟X線発光スペクトル (価電子帯からN 1sへの電子遷移に伴う発光) の測定を行ない、価電子帯の p 状態について理論計算などと比較研究した。

 

 

平成10年度 修士論文要旨

高瀬 禎  「光電子分光法による CeSi の Ce 4f 電子状態の研究」

 斜方晶 FeB 型構造をとる CeSi は、低温では反強磁性転移を起こし、3次元正弦波的に変調した磁気モーメントを持つなど興味深い物性を示すが、分光学的研究は未だな されていない。本研究ではX線および高分解能真空紫外光電子分光法を用い、CeSi の電子状態、特に Ce 4f 電子状態に着目し実験的研究を行った。Ce 3d XPS スペクトルは 4f1 終状態に対応する強いピークと、 4f0 および 4f2 終状態に対応する弱いサテライトを示す。これらの強度比を他の Ce 化合物と比較した結果、CeSi は基底状態において、Ce 4f 電子と伝導電子の混成は非常に弱く、4f 電子の数はほぼ1であることが分かった。また、極低温価電子帯スペクトルのフェルミ準位直下に近藤ピークの裾は見られなかった。この事実は、近藤効果を示 さないとする帯磁率などの測定結果と一致する。さらに、フェルミ準位近傍にはスピン軌道励起に対応するピークの他に、結晶場励起に起因すると考えられる構 造が観測された。

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