なかもず解析セミナー
2012 年度
講演者[敬称略] 講演題目 開催日
9 市延 邦夫
愛知教育大学
複素領域における偏微分方程式に現れる発散解の\(k\)-総和法 [abstract] 2月1日
8 芦澤 恵太
舞鶴高専
数値調和解析とその画像圧縮への応用 [abstract] 12月7日
7 平田 賢太郎
秋田大学
熱方程式の除去可能な特異点に関する Hsu の結果のポテンシャル論的証明 [abstract] 11月30日
6 竹内 慎吾
芝浦工業大学
一般化ヤコビ楕円関数とp-ラプラシアン [abstract] 10月19日
5 高橋 太
大阪市立大学
Navier 境界条件付き多重作用素の Green 関数に対する恒等式とその応用 [abstract] 9月14日
4 鬼塚 政一
岡山理科大学
2階線形微分方程式の摩擦係数が漸近安定性と一様漸近安定性に与える影響 [abstract] 7月6日
3 黒田 紘敏
大阪府立大学
グラフに退化する領域上のラプラシアンの特異極限 [abstract] 6月8日
2 佐藤 洋平
大阪市立大学
連立非線形シュレディンガー方程式の符号変化解の多重存在 [abstract] 5月11日
1 赤木 剛朗
神戸大学
Symmetry and stability of asymptotic profiles for fast diffusion [abstract] 4月13日

2012 年度世話人:壁谷 喜継,川上 竜樹,松永 秀章,山岡 直人

市延 邦夫, 複素領域における偏微分方程式に現れる発散解の\(k\)-総和法

複素2次元の非コワレフスキ型変数係数線形偏微分方程式の初期値問題を考える。複素熱方程式に代表される非コワレフスキ型偏微分方程式の初期値問題では、初期値に正則関数を与えたとしても一般に発散解が現れる。本講演では、この発散解の\(k\)-総和法について主に考察する。

初めに、形式解が収束する場合について考える。初期値にどんな条件があれば形式解が収束するのかを考える。次に、形式解が発散する場合、その発散解の\(k\)-総和可能性について考える。具体的には、その発散解が、ある領域で正則な真の解の漸近展開であることを示す。この発散解の\(k\)-総和可能性の問題は、初期値問題に付随する線形常微分方程式の形式解の\(k\)-総和可能性の性質に帰着される。


芦澤 恵太, 数値調和解析とその画像圧縮への応用

JPEG 標準をはじめとし,ディジタル画像の非可逆圧縮には,ある画素の状態は周囲の画素との類似性が高いという仮定に基づき,ブロック単位の離散コサイン変換の張り合わせによる方法が広く用いられている.我々は,元画像をブロック境界の近似的な勾配を境界条件とする偏微分方程式の解と離散コサイン級数に分解する方法を提案している.本講演では,元画像と偏微分方程式の解との残差を利用した画像圧縮アルゴリズムの有効性について,主に数学的な立場から理論的な保証を与える.なお,本講演内容は名城大学の山谷克准教授との共同研究によるものである.


平田 賢太郎, 熱方程式の除去可能な特異点に関する Hsu の結果のポテンシャル論的証明

2010 年に Hsu は \((\Omega\setminus\{0\})\times(0,T)\) 上の熱方程式の解が \(\Omega\times(0,T)\) へ拡張できるための必要十分条件を与えた。彼は,円環柱上の解の積分表現公式と Green 関数の評価を用いて解の特異点付近での挙動を調べることで拡張可能性を示した。同年に Hui は,放物型 Schauder 評価を用いて特異点付近での勾配の挙動を調べることにより全体で弱解になることと局所有界性を示し,最大値原理により古典解として拡張可能であることを示した。本講演では,放物型ポテンシャル論に関する Watson (1976) の結果を用いた簡単な証明を与える。


竹内慎吾, 一般化ヤコビ楕円関数と p-ラプラシアン

一般化三角関数は Lundberg (1879),Elbert (1979),Lindqvist (1995) らによって古くから研究されている特殊関数である.p-ラプラシアンの固有値問題をはじめ,数学の様々な分野で応用されており,最近では例えばp-距離での等周問題やカタラン定数の新表現を与える際に用いられている.一方,加法定理やルベーグ空間の基底の生成などの,三角関数と同様の性質を有するかどうかは完全にはわかっておらず,現在も活発に研究されている.

講演者が最近導入した「一般化ヤコビ楕円関数」は,その母数が0のとき一般化三角関数と一致する特殊関数である(これはヤコビ楕円関数が母数0のとき三角関数と一致することに対応する).本講演では一般化ヤコビ楕円関数とp-ラプラシアンとの関係について,主に微分方程式の立場から詳しく述べる.時間が許せばルベーグ空間の基底の生成に関する話題についても触れたい.なお,本講演では複素変数は扱わないのでご了承願いたい.


高橋 太, Navier 境界条件付き多重作用素の Green 関数に対する恒等式とその応用

Navier 境界条件付き多重調和作用素 \((-\Delta)^p (p \in \mathbb{N})\) の Green 関数に対するいくつかの Pohozaev 型積分恒等式を紹介する。これらは \(p=1\) の場合の Brezis-Peletier, Ren-Wei の結果の一般化になっており、解の爆発・凝集現象を伴う非線形方程式への応用が期待される。本講演では、応用例として、以下の項目について述べる。

(1)対称領域上の Robin 関数の臨界点の非退化性
(2)多重調和作用素を主部の線形項に持つ平均場方程式の多重爆発解の非存在


鬼塚 政一, 2階線形微分方程式の摩擦係数が漸近安定性と一様漸近安定性に与える影響

本講演では、減衰振動子として知られる2階斉次線形微分方程式の解の漸近的挙動を考察する。2階線形微分方程式の係数が定数であれば、その一般解 が求まることは旧知の事実であるが、係数が変数であれば、解を求めることは非常に困難となる。2階線形微分方程式は原点を唯一の平衡点として持 ち、その安定性は摩擦係数の影響によって変化することが知られている。今回は特にバネ定数を1に限る。もしも、摩擦係数が正の定数であれば、原点 は漸近安定であるが、摩擦係数が正でない定数であれば、原点は漸近安定でない。定数係数のときは一般解を調べることにより、このような判定が可能 であるが、摩擦係数を変数に緩めた場合では、一歩踏み込んだ議論が必要となる。摩擦係数が非負の変数であって、有界であるときに small damping, また、ある正の定数よりも常に大きい(非有界も許す)ときに large damping と呼ばれ、それぞれにおいて原点の漸近安定性は数多く議論されてきた。本講演では、特に small damping の観点から漸近安定性を考究し、さらに、漸近安定性よりも強い性質である一様漸近安定性との条件の違いに触れる。


黒田 紘敏, グラフに退化する領域上のラプラシアンの特異極限

ネットワーク状のグラフに対して,それを半径をパラメータとして膨らませたチューブ状領域を考え,その領域がだんだん細くなりながらグラフへ収束していく状況を考える.特にそのパラメータづけられた各領域上の境界条件を備えたラプラシアンの列をとり,その極限として現れるグラフ上のハミルトニアンについて考察する.その際にグラフの頂点でどのような境界条件を備えたハミルトニアンが現れるかについて,グラフの幾何学的条件が影響するような過去の興味深い結果を紹介する.また特にノイマン境界条件の場合に,収縮する領域上のハミルトニアンに対応するエネルギー汎関数列のMosco収束性を利用した結果について発表する.


佐藤 洋平, 連立非線形シュレディンガー方程式の符号変化解の多重存在

次の連立非線形シュレディンガー方程式を考える.

\[ \begin{aligned} - \Delta u + \lambda_1 u &= \mu_1 u^3 + \beta u v^2 \quad \mathrm{in}\; \Omega,\\ (*) \qquad - \Delta v + \lambda_2 v &= \mu_2 v^3 + \beta u^2 v \quad \mathrm{in}\; \Omega,\\ u, v &\in H^{1}_{0}(\Omega). \end{aligned} \]

ここで \(\Omega \subset \mathbf{R}^N\) \((N \le 3)\) は境界が滑らかな有界開集合とし,\(\lambda_1, \lambda_2, \mu_1, \mu_2\) は正の定数,\(\beta\) は実数のパラメータとする.この講演では,パラメータ \(\beta\) が負のとき,正で十分 \(0\) に近いとき,あるいは十分大きいときの 3 通り場合について,\(u\) は正であるが \(v\) は符号変化を許すような \((*)\) の解 \((u,v)\) の多重存在について考える.


赤木 剛朗, Symmetry and stability of asymptotic profiles for fast diffusion

N 次元有界領域における Fast diffusion 方程式の Cauchy-Dirichlet 問題について考える. このような問題では, 解が有限時間で消滅することが知られており, またその消滅レートや消滅解の漸近形も明らかになっている. 本講演では消滅解の漸近形の安定性に注目する.

前半では, はじめに Fast diffusion 方程式の漸近形に関する既存の結果の紹介を行う. 次に, 漸近形の安定性・不安定性の定義を与える. さらに漸近形の安定性・不安定性の判定条件を与える. 判定条件の導出には, 全ての漸近形が解となる Emden-Fowler 型方程式に対する変分解析, および, ある超曲面上の無限次元力学系の解析が重要な役割を担う.

後半では, 前半で与えた判定条件から外れてしまうケースについて議論する. 特にアニュラス領域における正値球対称な漸近形の安定性解析を行う. さらにここで行った漸近形の安定性解析の議論を応用して, Emden-Fower 型方程式の解の対称性・非対称性を調べる方法を提案する.

本講演は佐賀大学の 梶木屋 龍治 先生との共同研究に基づく.



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