なかもず解析セミナー
2013 年度
講演者[敬称略] 講演題目 開催日
17 水谷 治哉
学習院大学
非有界なポテンシャルをもつ変数係数シュレディンガー方程式のストリッカーツ評価 [abstract] 1月31日
16 江夏 洋一
東京大学
時間遅れをもつ微分方程式系に対する Lyapunov 汎関数の構成法とその応用 [abstract] 12月13日
15 佐野 めぐみ
大阪市立大学
A mean value property for polycaloric functions [abstract] 11月6日
内免 大輔
大阪市立大学
Sobolev の臨界指数を持つ Kirchhoff 型方程式の正値解の存在について [abstract]
14 藤本 皓大
大阪府立大学
2階非線形常微分方程式の解の大域存在性における減衰項の影響 [abstract] 10月11日
小坂 篤志
大阪府立大学
\(S^2\)上の測地球上で定義された半線形楕円型方程式の分岐構造 [abstract]
13 千葉 逸人
九州大学
一般化スペクトル理論とその結合振動子系への応用 [abstract] 7月12日
12 町原 秀二
埼玉大学
空間1次元Chern-Simons-Dirac方程式の初期値問題の適切性について [abstract] 6月21日
11 池田 幸太
明治大学
集団運動する樟脳粒で観測される非一様流 [abstract] 5月31日
10 田村 隆志
大阪府立大学
マクロ経済モデルに現れる関数方程式に関して [abstract] 4月12日

2013 年度世話人:壁谷 喜継,川上 竜樹,黒田 紘敏,松永 秀章,山岡 直人

水谷 治哉, 非有界なポテンシャルをもつ変数係数シュレディンガー方程式のストリッカーツ評価

シュレディンガー方程式に対する定量的な平滑化作用のひとつである時間局所ストリッカーツ評価について、漸近的平坦な計量と無限遠方で発散するポテンシャルを伴った場合を考察する。この講演ではポテンシャルの増大度が劣二次であれば自由な場合と同様の評価が成り立ち、優二次の場合には増大度によって特徴付けられる微分の損失が生じることを示す。


江夏 洋一, 時間遅れをもつ微分方程式系に対する Lyapunov 汎関数の構成法とその応用

時間遅れをもつ数理モデルの平衡解の大域的な安定性に関する研究が著しい発展を遂げてきた。本講演では、感染症流行の人口集団における振る舞いを予測するために、発症までの潜伏期間の長さを時間遅れによって記述した感染症モデルの "内部平衡解 (感染平衡解)の大域漸近安定性" に関する成果を報告する。具体的には、近年に得た Lyapunov 汎関数の統一的な構成法を用いることで、基本再生産数 \(R_0\) と呼ばれる閾値を用いた解の時間大域的な漸近挙動の分類を行うだけでなく、いくつかの応用例も示す。

さらには、関連話題である Stefan 型の自由境界問題の解の漸近挙動も紹介する。具体的には、基本再生産数 \(R_0\) が 1 より大きい場合であっても、初期時刻における生息領域の大きさによって、感染症の終局的な流行規模が変化する事例も紹介したい。


佐野 めぐみ, A mean value property for polycaloric functions

関数が caloric ならば、平均値の定理が成立することがよく知られている。本講演では、この事実の空間一次元での一般化を論じる。polycaloric 関数の概念を導入し、その平均値の定理を述べる。またこの研究のきっかけとなった G.Lysik の結果である多重調和関数の平均値の定理についても言及する。


内免 大輔, Sobolev の臨界指数を持つ Kirchhoff 型方程式の正値解の存在について

Kirchhoff 方程式は弦の自由振動を記述する波動方程式であり、特に弦の伸びが引き起こす張力の変化を考慮にいれたものとして1876年に Kirchhoff によって提唱された。Kirchhoff 方程式の最大の特徴はその主要項が解自身の勾配の\(L^2\)ノルムに依存する係数を持つことにある。この型の波動方程式の可解性についての数学的解析は Bernstein (1940) を始め、古くから行われているが、特に近年、Alves-Corr\(\hat{\mathrm{e}}\)a-Ma (2005) の結果を皮切りに、その定常方程式に対する変分的手法を用いた解析が盛んに行なわれている。本講演では非線形楕円型方程式の変分解析では最も興味深い問題の一つである、非線形項が Sobolev の臨界指数を持つ問題を取り上げ、その解の存在について Brezis-Nirenberg (1983) 型の結果を与える。時間が許せば、Kirchhoff 型方程式に対応する PS 列の詳細な記述、大域的コンパクト性についても言及したい。


藤本 皓大, 2階非線形常微分方程式の解の大域存在性における減衰項の影響

本講演では、平均曲率作用素や\(p\)-ラプラシアンを主要部に持つ常微分方程式の初期値問題について考える。まず、この方程式の主要部に現れる関数の定義域と値域の有界・非有界性に着目し、相平面解析とタイムマップを用いて解の大域存在性に関する必要十分条件を導く。解の大域存在性は、無限遠方における解の漸近挙動を議論するために不可欠である。そのため、大域解の存在を仮定した上で解の振動性や安定性などを議論することもある。しかし、この方程式に減衰項を加えると、非自明な大域解をひとつも持たない場合がある。そこで、減衰項を加えた方程式のすべての非自明解が大域的に存在しないための十分条件を与える。


小坂 篤志, \(S^2\)上の測地球上で定義された半線形楕円型方程式の分岐構造

本講演においては、\(S^2\)上の測地球上で定義された半線形楕円型方程式の解について考える。特に扱うのは、関連する線形楕円型方程式の固有値を分岐点として持つ解である。又、その証明に必要な、測地球を球面に近づけたときの固有値の漸近挙動に関する結果も合わせて紹介する。この結果により、測地球が球面に十分近い場合においては固有値の分布がわかり、そのことから Lyapunov-Schmidt の reduction method を用いて分岐解の存在が示される。


千葉 逸人, 一般化スペクトル理論とその結合振動子系への応用

Gelfand tripletと呼ばれる、線形位相空間の3つ組上での線形作用素のスペクトル理論を展開する。通常、作用素のスペクトルは、\(\mathbb{C}\)上におけるレゾルベントの特異点集合として定義されるが、Gelfand tripletを導入すると、 レゾルベントが複雑なRiemann面を持ちうる。そこで、Riemann面全体を 見渡した時のレゾルベントの特異点集合を一般化スペクトルと呼ぶ。一般化スペクトルは、普通のスペクトルと同じくらい、作用素についての重要な情報を持っており、これを用いることで従来は見えなかった現象を捉えることができる。 講演では、これをある無限次元力学系の解の分岐理論に応用する。


町原 秀二, 空間1次元Chern-Simons-Dirac方程式の初期値問題の適切性について

Chern-Simons-Dirac方程式を空間1次元で取り扱う数学モデルは初めHuh氏(2010)により提唱された。初期値問題の適切性を考えるが、Huh氏の論文、および後続の論文では\(L^2\)を基にしたSobolev空間における解の存在定理が示された。今回は少し趣を変えてLebesgue空間 \(L^p\)での解の存在定理を示したい。本研究は東北大学小川卓克氏との共同研究である。\(L^p\)空間における時間大域適切性を求める。時間局所解をアプリオリ評価を利用しながら時刻無限まで延長できることを示す。特に臨界空間である\(L^1\)空間では解が空間の1点に収縮してしまうことを否定することにより時間大域解を得たのでその証明を説明したい。

また、もし時間が許せば京都大学岡本葵氏との共同研究で得られた\(L^2\)を基にしたSobolev空間での適切性における注意を紹介したい。


池田 幸太, 集団運動する樟脳粒で観測される非一様流

粒状に固められた樟脳を水面に浮かべると、自発的に動き出す場合がある。これは、樟脳から水面に展開される樟脳膜によって表面張力が低下することと、樟脳膜の濃度が昇華によって低下することが原因であると考えられている。実は、樟脳粒が環状の水路に多数存在する場合を考えると、全ての樟脳粒が一定速度で進行する状態が不安定化し、密度差を伴った集団運動(非一様流と呼ぶ)が観測されることが知られている。これらの事実は実験的に観測されている。また、この現象は樟脳粒に関する運動方程式と、樟脳膜に関する反応拡散方程式によって既にモデル化されており、数値計算によって樟脳粒の運動や非一様流の存在が確認されている。しかしながら、解析的な研究は十分とは言えない。

同様の現象は車の渋滞においても観測され、集団運動における普遍的な性質であると考えられている。しかしながら、樟脳粒は反応拡散方程式に支配される一方で、車の集団運動は流体モデルや常微分方程式系等でモデル化されているため、多粒子系に密度差が生じる数理的なメカニズム、普遍性は明確ではない。そこで本研究では、まず樟脳粒に関する反応拡散方程式の縮約モデルである常微分方程式系を導出し、得られた縮約モデルが車の渋滞モデルとして知られているOVモデルと近い性質を持つことを示す。この結果によって、樟脳粒と車の運動における数理的メカニズムがある意味では等しいことが示唆される。次に、縮約モデルにおける進行波解の安定性解析を通じて、樟脳の集団運動に密度差が生じる原因を特定する。この解析によって、これまで知られていなかった非一様流の存在や性質が明らかとなる。


田村 隆志, マクロ経済モデルに現れる関数方程式に関して

マクロ経済学で扱われる基本的なモデルにゼロ金利制約を導入した場合に現れる関数方程式の解の存在と一意性に関する結果を紹介する。従来のマクロ経済学ではモデルを導出した後、線形近似し合理的期待の仮定の下、モデルの解を求めていた。線形近似したことにより、たとえモデルにランダム項があってもこれは線形代数の範囲の議論で完結していた。しかしながら中央銀行の金融政策にゼロ金利制約を考慮すると線形近似が適用できなくなり、線形代数ではなく、関数方程式としての議論が必要になってくる。本研究ではランダム項が非常に小さい場合に合理的期待の仮定のもとモデルの解が存在して一意であることを示した。



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