なかもず解析セミナー
2015年度
講演者[敬称略] 講演題目 開催日
33 側島 基宏
東京理科大学
On generation of analytic semigroups for non-selfadjoint extensions of Calogero Hamiltonian [abstract] 1月20日
32 江上 親宏
東京農業大学
BZ 反応による時間遅れ結合振動子系の実験と解析 [abstract] 12月7日
31 Pavel Rehak
Academy of Sciences of the Czech Republic
Half-linear differential equations [abstract] 11月12日
30 中田 行彦
東京大学
遅延方程式による感染症モデルの定式化:免疫減衰と(不)安定性 [abstract] 10月26日
29 橋詰 雅斗
大阪市立大学
Hardy-Sobolev 不等式に関連する最小化問題 [abstract] 7月17日
藤嶋 陽平
静岡大学
On the effect of higher order derivatives of initial data on the blow-up set for a semilinear heat equation [abstract]
28 桑村 雅隆
神戸大学
保存量をもつ反応拡散方程式の摂動とダイナミクスについて [abstract] 6月12日
27 青井 久
立命館大学
数学に関わるクラウド環境の現状について [abstract] 5月29日
26 兵頭 昌
大阪府立大学
高次元における判別法の誤判別確率の推定について [abstract] 4月10日

2015 年度世話人:壁谷 喜継,川上 竜樹,松永 秀章,山岡 直人,藤本 皓大(D1)

側島 基宏, On generation of analytic semigroups for non-selfadjoint extensions of Calogero Hamiltonian

本講演では、2体問題に対する Calogero Hamiltonian \(H=-d^2/dr^2+b/r^2\) \((b\in\mathbb{R})\) について、\(-H\) の \(L^2(0,\infty)\) 上での解析半群の生成可能性について扱う。この作用素の性質はパラメータ \(b\) によって大きく異なり、その閾値は Hardy の不等式の最良定数に対応する \(b=-1/4\) であることが知られている。\(b\geq -1/4\) のときは、Friedrichs extension \(H_F\) に対して \(-H_F\) が解析半群を生成し、\(b<-1/4\) の場合は、自己共役拡大は強連続半群を生成しないことが知られている。しかし、\(H\) の非自己共役拡大に対する解析半群の生成は知られていない。本講演では、\(b<-1/4\) の場合に焦点を絞り、解析半群を生成する非自己共役拡大の存在について述べる。尚、本研究の内容は University of Salento の Giorgio Metafune 氏との共同研究に基づく。


江上 親宏, BZ 反応による時間遅れ結合振動子系の実験と解析

自然科学や社会科学の現象において、時間遅れの影響分析を主題とした実験系構築とデータ収集は、一般にはそれほど手軽なことではない。本研究の主目的は、結合振動子系における結合の時間遅れが同期モードに与える影響に関する実験データの取得と、数理モデルの解析および再現性の検証である。その題材として、今回は比較的実験系を構築しやすい Belousov-Zhabotinsky (BZ) 反応を選んだ。本講演では、結合 BZ 振動子系おいて時間遅れの影響を調べるための実験系構築上の工夫や、実際に取得したデータと数理モデルのシミュレーションとの整合性について紹介する。また時間が許す範囲で、モデルの理論的な解析の方針も示したい。


Pavel Rehak, Half-linear differential equations

In the talk, we will present some of the basic results of qualitative theory of half-linear differential equations. We will mention a few words about the history and the current research. We will discuss similarities as well as discrepancies when comparing the half-linear theory with the linear one. Further, we will deal with the existence and uniqueness problems. Several basic principles (like the Riccati technique, the Pruefer transformation, the variational principle, and the Sturm type results) will be mentioned and their applications will be shown.


中田 行彦, 遅延方程式による感染症モデルの定式化:免疫減衰と(不)安定性

最初に、1927年に Kermack と McKendrick によって発表された感染症モデルを例に、遅延方程式を用いた構造化個体群モデルの定式化について紹介する。構造化個体群モデルは、年齢や身体サイズ等の個体特性を基本材料に全体の人口集団の時間発展を記述し、多くの場合には、輸送型の一階偏微分方程式として定式化されてきた。基本再生産数を用いた閾値挙動や、最終規模方程式 (Final size relation) などの理論疫学でよく知られた結果を普遍的に紹介し、その後、免疫減衰と再感染を考慮した遅延方程式のモデルを導出する。これは、感受性保持者の変化を示す遅延微分方程式と感染力の再生性を表す再生方程式の系によって記述される。特性方程式の解析による(不)安定性結果をいくつか発表するとともに、特別な場合の大域的挙動や周期解挙動についても議論したい。


橋詰 雅斗, Hardy-Sobolev 不等式に関連する最小化問題

Hardy-Sobolev 型の埋め込みである Sobolev 空間 \(H_0^1(\Omega)\) から重み付き Lebesgue 空間 \(L^p(\Omega,|x|^{-s})\) への埋め込みは Sobolev 埋め込みとよく似た性質を持っている。しかし、有界領域では達成されない Sobolev の最良定数とは異なり、Hardy-Sobolev 型の臨界埋め込みにおける最良定数は有界領域内の特異点の位置によって達成可能性が変わることが知られている。本講演では原点を領域の内部においた場合の埋め込み \(H^1(\Omega)\hookrightarrow L^{2^*(s)}(\Omega,|x|^{-s})\) に関する最良定数の達成可能性について考察する。また、原点が境界にあり、境界に特別な条件を課した場合の最良定数の達成可能性についても考察する。


藤嶋 陽平, On the effect of higher order derivatives of initial data on the blow-up set for a semilinear heat equation

本講演では十分に大きな初期値を持つ半線形熱方程式の爆発問題, 特に爆発集合の位置の特徴付けについて考察する. 初期値が十分に大きな場合, 解は初期値の最大点の近くでのみ爆発することが知られている. さらに, 最大点が複数点存在する場合には初期関数の最大点におけるラプラシアンの値を比べることにより爆発集合の位置が特徴付けられる. 本講演では, 初期値が最大点を複数点持つが, それらの最大点におけるラプラシアンの値が一致する場合を考察する. その際, ある特別な型の大きな初期値を考えると, 初期関数の高階微分の効果が爆発集合の位置の特徴付けに現れることを紹介する.


桑村 雅隆, 保存量をもつ反応拡散方程式の摂動とダイナミクスについて

細胞の極性化 (cell polarization) を説明するために、Otsuji と Ishihara 等によって導入された反応拡散方程式モデルは保存量をもつ。この方程式については、拡散誘導型の不安定性によって空間一様な平衡解から分岐する解が局在化された単純な形の解 (spike) に近づくことが知られている。本講演では、この方程式を摂動したものを考えることにより、大域的に安定な空間一様平衡解をもつ反応拡散方程式であっても、遷移過程において Turing-like な空間パターンが現れる例を与える。また、空間的に(ほとんど)一様な振動状態と Turing-like な空間パターンが交互に繰り返し現れる例を与える。


青井 久, 数学に関わるクラウド環境の現状について

近年発展が目覚ましいクラウドサービスは数学の分野に対しても新たな利用形態を提供している.利用者は特別な準備をしなくとも,膨大な計算の実行から資料の作成に至るまで,幅広いレベルや用途に対応できる環境を簡単に利用できるようになった.これらにはセキュリティやデータの機密性といった課題もあるが,オープンソースとして提供されているものも存在しており,各自でサーバを構築することも選択肢に入れることができる.今回は,講演者が実際に利用している数式処理システムSage および LaTeX 環境 ShareLaTeX を中心に,使用者およびサーバ運営者の視点から見た数学クラウド環境の実態について簡単に解説したい.


兵頭 昌(大阪府立大学), 高次元における判別法の誤判別確率の推定について

本講演では, 異なる2つの高次元の設定における線形判別ルールの期待誤判別確率の推定問題を扱う. Fisher の線形判別ルールの期待誤判別確率の推定問題は, Lachenbruch and Mickey (1968) が 提案した大標本漸近枠組みにおける漸近不偏推定量等にみられるように大標本データを想定し多くの研究がなされてきた. しかしながら, 大標本漸近理論に基づく漸近近似は, 次元 \(p\) が増加すると精度が低下することがわかっている. 一方, 高次元データの出現に伴って, 次元 \(p\) と標本の大きさ \(N\) が同程度に大きくなる枠組での高次元漸近理論が発展して来ている. 1つ目の話題として, \(p < N\) である高次元の枠組みの下で, バイアス補正された Fisher の線形判別ルールの期待誤判別確率の推定量を導出し, 大標本漸近理論との関係を明らかにしながら概観する. 尚, ここで紹介する結果は, Kubokawa, Hyodo and Srivastava (2013) や Hyodo, Mitani, Himeno and Seo (2015) で与えた結果に基づいている. 2つ目の話題としては, \(N \ll p\) の状況で用いられるユークリッド距離に基づく判別関数の期待誤判別確率の推定問題を扱う. このような設定の下では, 母集団に正規性を仮定することは非現実的であるため, それよりも緩いモデルを想定し議論する. この非正規のモデルと幾つかの仮定の下で, 一致性・漸近不偏性を有する期待誤判別確率の推定量を紹介する. 尚, ここで紹介する結果は, Yamada, Hyodo and Seo (2015) の結果に基づいている.



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